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京都地方裁判所 昭和44年(行ク)1号 決定 1969年2月15日

申立人 城陽産業株式会社

被申立人 京都府知事

訴訟代理人 伴喬之輔 外三名

主文

本件申立てを却下する。

申立費用は、申立人の負担とする。

理由

一、申立ての趣旨および理由

別紙一に記載のとおりである。

二、被申立人の意見

別紙二に記載のとおりである。

三、当裁判所の判断

(一)  事件の経過

本件記録によれば、事件の経過等は次のとおりであることが認められる。

申立人会社は、土砂、砂利類の採取、販売事業等を目的とする会社であつて、昭和三六年六月以降、京都府久世郡城陽町大字中小字芦原六八番地の一の六に所在する山林(地積二〇、九〇二平方米)(同町青谷地区を貫流する青谷川の上流に位置する。)の一部(地積一二、九〇〇平方米)において、山砂利等の堀削、採取等を行ないその事業施設として、現在ドレージヤー選別機、デレツククレーン、ブルドーザーシヨベル等の諸機械および沈澱池等を有し、現在一日当り約九〇立方米の砂利採取をしていること、

ところで、本件採取地域を含む芦原地区は、内務大臣により砂防設備を要する土地としての指定を受けた(大正五年五月六日内務省告示第二六号)、いわゆる指定土地(砂防法第二条)であるところ、地方行政庁は、治水上、砂防のため一定の行為を禁止、制限することができ(同法第四条第一項)、禁止、制限行為は、都道府県規則をもつて定めることとされ(同法施行規程第三条)、これに基づき制定された砂防指定地管理規則(昭和四〇年四月一日京都府規則第一五号)によると、施設等の新築、堀削、土石(砂利、砂を含む。)の採取等を行なおうとする者は、知事の許可を受けるべきものとされていること(同規則第三条)、

申立人は、右法条に基づいて、事業開始以後、砂防指定地内行為の許可申請を行ない、被申立人は、これに対して一定の厳格な条件を付したうえ、許可して来たこと、ところで、申立人は、最終の許可期間(昭和四二年三月三一日)満了後の昭和四二年九月八日(受付日)、昭和四三年一〇月二日(受付日)の二回に亘つて、従来同様許可申請をしたところ、被申立人は、いずれもその申請書の受理を拒否したこと(以下単に拒否処分という。)、

申立人は事業開始以来、右拒否処分を受ける間において、施業方法に関する許可条件を遵守せず(殊に、申請書および同添付図面記載どおりの洗浄選別方法を行なわず、沈澱池を設けず、既存の沈澱池も堆積泥土を除去しないため事実上使用不能であつた)洗浄した泥水を直接青谷川に放流したため、多量の泥土が青谷川底に堆積して河床が上昇し、川の断面積が狭くなり降雨時には危険な状態となり、又泥水のため潅漑用水等の役に多大の支障を生ぜしめたこと、これがため、被申立人から文書による指示、指導、警告あるいは口頭による注意はしばしば行なわれ、殊に作業中止命令は合計一四回に及んだにも拘らず、何ら政めるところなく、許可期間経過後も、依然として無許可のまま事業を継続し、昭和四二年八月一四日には、被申立人から砂防指定地管理規則違反被疑事件として宇治警察署長に告発されるに至つたもので、前記拒否処分は、申立人の右のような違反行為継続の結果によるものであること、その後、被申立人は、申立人の無許可操業行為を中止させるため、昭和四三年一〇月一七日付京都府達第六三号をもつて、申立人に対し、砂防指定地内行為(堀削、土石採取等)の中止ならびに履行命令(洗浄選別施設等の除却)を発したこと(以下、本件中止命令等という。)、

以上のことが認められる。

(二)  本件申立ての当否

従つて、以上の経過によれば申立人は、昭和四二年三月三一日の許可期間満了後においては、何らの施業を行なう権限をも有しないことは明らかである。

すなわち、かりに、申立人主張のとおり、拒否処分が違法なものであり、従つて、それを前提としてなされた本件中止命令等もまた違法であるから、その取消しを免れないとして(主張自体の当否にも問題があるが、これはしばらく措く。)、裁判所の取消判決の結果、被申立人があらためて前記許可申請を受理し、審査のうえ、かりに許可したとしても、これによつて与えられる施業の権利は、許可以降のものに過ぎないのであるから(拒否処分当時まで許可の効力が遡及するものとは考えられない。)、その間における施業は、何らの権限なしに行なわれるものであることは明白であろう。

ところで、申立人は、本件中止命令等取消訴訟に基づき、その執行の停止を求めるものであるが、抗告訴訟に基づく執行停止が許されるためには、現に係属している本案たる抗告訴訟が適法な訴えであることを要するので、この点について考えるに、

本来、抗告訴訟の対象になるのは、個人の具体的権利義務に影響をおよぼす公権力の行使に該る行為に限られるものであるから、それ自体、救済さるべき個人の権利の存在を予定しているものであることは、自明の理である。従つて、かような権利自体が当初より全く存在しない場合においては、もはや抗告訴訟を提起し得る法律上の利益がないものといわねばならない。

右の見地から、本件本案訴訟の適否を検討するに、

本件中止命令等が、申立人主張のとおり、かりに違法であるとしても、前記認定のとおり、申立人には、救済さるべき権利(施業し得る権利)がそもそも存しないのであるから、その取消しを訴求する法的利益がなく、本案訴訟は不適法なものというべきである。

また、別の観点から考えても、申立人の有する洗浄選別施設等の事業施設の除却、施業中止等に伴なう損害は、ほぼ金銭的に補償可能なものであり、回復困難な損害を避けるために緊急の必要があるものとは認め難い反面、もし、本件中止命令等の執行が停止された場合、それによつて誘発される前記のごとき人的、物的災害の助長および危険性の増大によつて、公共の福祉に重大な影響をおょほすものと考えられ、この意味においても、本件申立ては許されないものといわねばならない。

(三)  結び

以上のとおりであるから、いずれの点から観るも、本件申立ては不適法であるから却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 久米川正和 稲垣喬 大藤敏)

別紙<省略>

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